【税金入門 vol.12】医療費控除 — 10万円の壁とセルフメディケーション税制
「医療費が10万円超えたら申告すると得」は半分正解
よく聞く話ですよね。結論から言うと、所得控除なので「10万円返ってくる」わけではない。【税金入門 vol.9】所得控除と税額控除の違い — 「所得から引く」vs「税金から引く」で解説したとおり、実際に戻るのは「控除額×自分の税率」。
とはいえ、入院や歯科治療で医療費がかさんだ年に使わないのはもったいない。しかも家族全員分をまとめて申告できるので、意外と10万円は超えやすい。
医療費控除の基本
計算式
医療費控除額 = 支払った医療費 − 保険金等で補填された金額 − 10万円
「10万円」がいわゆる足切りライン。ただし総所得金額が200万円未満の人は、10万円ではなく**総所得金額の5%**が足切りラインになる。年収300万円前後のパートの方だと、こっちのほうが低くなるケースがある。
控除の上限は200万円。
具体例
年間の医療費が30万円、保険金による補填が5万円の場合(税率20%):
控除額 = 30万 − 5万 − 10万 = 15万円
節税額 = 15万 × 20%(所得税)+ 15万 × 10%(住民税)= 45,000円
30万円かかって45,000円戻る。「30万円返ってくる」わけでも「10万円返ってくる」わけでもない。所得控除の仕組みを知っていれば当然の計算ですが、期待値を間違えている人は多い。自分の税率だと還付額がいくらになるか気になる方は、ZeiSimのシミュレーターで確認してみてください。
「保険金等で補填された金額」とは
- 健康保険の高額療養費
- 生命保険の入院給付金・手術給付金
- 損害保険の医療保険金
これらを受け取った場合、その金額を差し引く必要がある。ポイントは対応する医療費ごとに差し引くこと。Aの治療で保険金20万円を受け取ったら、Aの医療費から20万円を引く。Bの医療費からは引かない。保険金がAの医療費を上回っても、マイナス分を他の医療費と相殺する必要はない。
対象になるもの・ならないもの
「これって申告できるの?」の疑問が一番多いのがこのパート。
対象になる医療費
| カテゴリ | 具体例 |
|---|---|
| 診察・治療 | 病院の診察代、入院費、手術費 |
| 歯科 | 虫歯治療、抜歯、歯列矯正(子どもの発育上必要なもの) |
| 薬代 | 処方薬、治療のための市販薬 |
| 通院交通費 | 電車・バス代(自家用車のガソリン代は不可) |
| 出産 | 妊婦検診、分娩費用、入院費 |
| 介護 | 訪問看護、介護保険サービスの一部 |
| あん摩等 | 治療目的のマッサージ、鍼灸、柔道整復 |
| その他 | 義歯、松葉杖、補聴器(医師の証明があるもの) |
対象にならないもの
| カテゴリ | 具体例 |
|---|---|
| 美容目的 | 美容整形、ホワイトニング、審美歯科 |
| 予防・健康維持 | 人間ドック(異常なしの場合)、サプリメント、ジム会費 |
| 日用品 | メガネ・コンタクト(医師の処方による治療用を除く) |
| 自己都合 | 差額ベッド代(自分で個室を希望した場合) |
| 交通費 | タクシー代(緊急時を除く)、自家用車の駐車場代 |
迷いやすいケース
レーシック: 対象になる。視力回復のための手術は治療に該当。
インプラント: 対象になる。自由診療だけど、歯の治療なので認められている。1本40〜50万円が相場なので、これだけで10万円は軽く超える。
人間ドック: 結果が「異常なし」なら対象外。ただし人間ドックで病気が見つかって治療を開始した場合は対象になる。
介護おむつ: 医師の「おむつ使用証明書」があれば対象。
家族全員分をまとめて申告できる
医療費、自分の分だけで計算していませんか? 医療費控除の見落としがちなポイントがここ。生計を一にする家族全員の医療費を合算して申告できる。
夫の医療費が4万円、妻が3万円、子どもが4万円 — 個々には10万円に届かなくても、合計11万円なら1万円分の控除が発生する。
しかも、家族の中で最も税率が高い人が申告するのが得。同じ控除額でも税率が高いほうが節税額は大きい。共働きなら所得が高い側で申告するのが基本。
セルフメディケーション税制 — 市販薬で使える「もうひとつの医療費控除」
2017年に始まった制度で、医療費控除の特例版。ドラッグストアで買った市販薬が年間12,000円を超えたら使える。
計算式
控除額 = スイッチOTC医薬品の購入額 − 12,000円(上限88,000円)
対象になる薬
スイッチOTC医薬品(医療用から市販薬に転用された薬)が対象。パッケージに「セルフメディケーション税控除対象」のマークが付いている。
- 頭痛薬(ロキソニンS、バファリンEX等)
- 胃腸薬(ガスター10等)
- 花粉症の薬(アレグラFX等)
- 湿布(ボルタレン等)
適用条件
- その年に健康診断・予防接種等を受けていること(健康維持のための取り組み)
- 通常の医療費控除と併用はできない。どちらか一方を選ぶ
通常の医療費控除とどっちが得か
| 医療費控除 | セルフメディケーション税制 | |
|---|---|---|
| 足切りライン | 10万円 | 12,000円 |
| 上限 | 200万円 | 88,000円 |
| 対象 | 医療費全般 | スイッチOTC医薬品 |
| 条件 | 特になし | 健康診断等の受診 |
判断基準はシンプル:
- 医療費が10万円を超えている → 通常の医療費控除
- 医療費は10万円以下だけどOTC医薬品が12,000円を超えている → セルフメディケーション
両方の条件を満たすなら、控除額を比べて大きいほうを選ぶだけ。迷ったらまず医療費の合計を出してみてください。10万円を超えていれば通常の医療費控除一択です。
確定申告のやり方
医療費控除は年末調整では受けられない。会社員でも確定申告が必要。ここで面倒に感じて放置する人が多いんですが、やること自体はそこまで難しくない。
必要なもの
- 医療費集計フォーム(国税庁の様式またはExcel)
- 医療費の領収書(提出は不要だが5年間保存義務)
- 医療費のお知らせ(健康保険組合から届く通知。記載分は明細の代わりに使える)
手順
- 1年間の医療費を集計する(1月1日〜12月31日)
- 保険金等で補填された金額を差し引く
- e-Taxまたは紙で確定申告書を提出
- 所得税の還付は申告から1〜2か月後、住民税は翌年6月から反映
医療費の領収書は2017年から提出不要になったけど、5年間の保存義務がある。税務署から求められたら提示する必要があるので、捨てずに保管しておくこと。
医療費の集計を手作業でやると、記入ミスや計算間違いで正しい還付額を受け取れないリスクがあります。
よくある間違い
「10万円を超えた分が返ってくる」
これ、何度でも言いますが間違い。10万円を超えた分が「控除額」になるだけで、実際に戻るのは「控除額×税率」。12万円の医療費なら控除額は2万円、税率20%で還付は4,000円。
「領収書をなくしたから申告できない」
医療費のお知らせ(医療費通知)が使える。健康保険組合から届く書類で、記載されている金額はそのまま医療費控除の明細として使える。ただし、窓口で支払った自費分や交通費は別途集計が必要。
「今年の確定申告の期限を過ぎたから諦めた」
医療費控除は過去5年分まで遡って申告できる。2025年分は2030年12月31日まで申告可能。期限を過ぎてもまだ間に合います。これを知らないで放置している人、結構いるんですよね。
この記事のまとめ
- 医療費控除は年間の医療費が10万円(または所得の5%)を超えた分が所得控除
- 家族全員分を合算できる。税率が高い人が申告するのが得
- セルフメディケーション税制は足切り12,000円。医療費控除と併用不可
- 会社員でも確定申告が必要。年末調整では受けられない
- 過去5年分まで遡って申告できる。諦めるのはまだ早い
次の記事では、税額控除の中で最もインパクトが大きい住宅ローン控除を解説します。0.7%の控除率、最長13年間、適用条件。
※ 本記事は2025年分の税制に基づく概要説明です。医療費控除の対象・金額は個人の状況により異なります。正確な判断は税理士にご相談ください。
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